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PlayStation 5本体デザインが抱える3つの不安点とは?

 

2020年6月12日にSIEは,次世代ゲーム機PlayStation 5の動画配信を行った。内容は,主なタイトルとデザイン,周辺機器の発表であった。タイトルについては,自社,サードとも豊富で特段の問題は感じられない。ただ,エース経済研究所では,ゲームタイトルの力ではハードウェアの販売の趨勢は決まらないと考えている。

 

●発売から250週の実売(セルスルー)台数推移

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(出所)ファミ通

 

このグラフは,たびたびここで取り上げている国内発売から250週の推移を見たものである。


 ここから読み取れることは,

  1. ハードウェアの販売趨勢(トレンド)は最初の2週間ほどで決まっており,その後のソフトの影響を受けない
  2. クリスマスシーズンには販売トレンドが上向く
  3. マイナーチェンジ時に薄型軽量化するとトレンドに変化が生じる場合がある

の3点である。

 

これらのことから,販売の趨勢はソフトウェアではなくハードウェア自身の問題で決まっていると考えるのが自然だろう。ソフトで決まっているなら,発売後に失速したハードが大作ソフトで販売が大幅に持ち直すケースや,ソフトのラインナップが少ないゲーム機は早晩失速するケースが複数あるはずである。

 

 Nintendo Switchが分かりやすいと思うが,サードの大作はほとんどなく,期待された「1.2.switch」は不発だった。当初,発表されたタイトルも,「ARMS」「1.2.switch」「マリオオデッセイ」「ゼノブレイド2」のほかは,「Wii U」でも展開された「マリオカート8DX」と「ゼルダの伝説 ブレスオブワイルド」と,タイトル数が少ないというのが2017年1月のNintendo Switch発表会時での大方の評価であった。ところが,Nintendo Switchは2017年一杯国内で品薄状態が続き,2020年に再び品切れを起こすなど好調な販売が続いている。サードのAAAタイトルがほとんどない状況にもかかわらずである。

 

それでも,性能の低いNintendo Switchは日本でしか売れていないと思っている人がいるかもしれない。次の図を見ていただこう。詳細の性能は開示されていないので,推測でしかないが,演算能力だけで見た場合Nintendo Switchは,PS4の半分以下だと思われる(※PS4は1.84TFLOPS,Switchは400GFLOPS程度と言われている)。しかし,販売(着荷)台数は,PS4と遜色ないレベルである。性能と販売に相関性があるならNintendo Switchの販売台数は,PS4を大きく下回っていないとおかしいことになる。

 

PS4とSwitchの販売(着荷)台数推移

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(出所)決算資料より,エース経済研究所

 

 また,PS4も,ローンチ時はそれほどタイトルが揃っているわけではなかったが,上記の様にハイペースでの販売が続いている。


 最初に売れると継続的に売れるのであれば,それはハードが魅力的だったと考えるのが当然に思える。この2つのグラフは性能やソフトにゲーム機の販売が影響を受けていないことを示していると私には思える。ところが現在でも,SIEは,ソフトと価格こそがゲーム機販売の趨勢を決めると強く信じているように見える。

 

 では,本題に入ろう。今回,発表されたPS5のデザインについて,エース経済研究所では非常に不安視している。

 

その理由は,

 

1、巨大なゲーム機が成功した事例が過去一度もないということ


2、曲面デザインを採用したゲーム機も成功事例が認められないこと


3、初期色が白色のゲーム機の成功例が少ないこと

 

の3点である。

 

Xbox series Xはすでにサイズが発表されており,15.1cm×15.1cm×30.1cmと,PS2の半分の販売台数に終わったPS3の初期モデルの23cm×9.8cm×32.8cmよりもかなり大きい。 PS5のサイズは明らかではないが,USBコネクタやドライブスロットのサイズから推測すれば,高さは35cmを優に超えそうである。このサイズは,他の大型ゲーム機,たとえば,PC-FXの13.2cm×26.7cm×24.4cmよりも大きい可能性が高い。

 

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エース経済研究所としては。大型のゲーム機の販売が好調だった事例がないのは,大きなゲーム機は設置場所が限られてしまうため,敬遠されてしまうからではないかと考えている。

 

 成功事例がないにも関わらず,PS5やXbox Series Xが巨大化してしまったのは,SIEとMicrosoftが隙のない高性能を追求したためと考えている。

 

 3月に発表されたPS5の性能は以下のとおりである。

 

1、APUは,AMDのZen2,Naviアーキテクチャをカスタマイズした半導体で,CPU部のクロック3.5GHz(可変)


2、GPU部は2.23GHzの10.28TFLOPS(可変),※なお,CPUとGPUは同時に最高クロックでは稼働できない


3、DRAMはGDD6の16GB
4、超高速SSD(5.5GB/秒)825GB,PS4の100倍以上高速
5、PS4との互換機能搭載
6、3Dオーディオ機能搭載

 

SSDは非常に高速で,PS4で不評だったロード時間の短縮に役立っている。素晴らしい性能といっていいだろう。しかし,動作周波数が高いAPU,さらに超高速バスを持つSSDともに発熱量が大きく,その代償として冷却システムも巨大にせざるを得ない。結果,このような巨大なゲーム機が誕生したということであろう。


 実際,以前ブルームバーグは,その点を指摘する記事を配信していた。

 

 重量も相当なものになるはずで,おそらく現実的なコストで空輸を行うことはできないだろう。実際,PS3(※本体4.4kg)は通常の貨物機では大量に運ぶことができないため,初期はロシアから巨大な貨物機をチャーターして輸送したため,赤字が拡大する要因になっていた。PS3以上のサイズであるPS5は,初期需要が強くてもおそらく空輸できないため,初期販売に躓いてしまう可能性がある。あるいはPS3のように最初の生産でトラブルが発生すると,販売量に響いてしまうだろう。

 

 上記のグラフに示したとおり,性能と販売に相関性がなく,ゲームハードは軽く薄くなるほど販売量が増える傾向があるように見える。性能よりサイズを優先すべきだったのではないだろうか。そこまで性能を追求する意義があるとはとても思えないのである。

 

 もう1つが曲面デザインの採用である。何を持って曲面かと定義するのは難しいが,PS3や,VITA,Wii Uの事例を見るに,側面が丸いものも成功事例が少ない。なぜ,そうなっているか未解明であるため,今後考察したいと思っている。

 

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最後に,過去のゲーム機で,白を基調としたデザインのゲーム機で国内販売に成功したものがない点だ。90年代に入って成型技術が向上して以降,PCエンジンPC-FXドリームキャストXbox 360WiiWii Uと,何度か白色のゲーム機が発売された。しかし,これらのうち成功したのは,Wiiしかない。しかも,Wiiはゲーム機というより,新規性の高いアイテムと当時は認識されていて,ゲーム愛好家の評価は決して高くなかったのである。

 

以上の点を踏まえると「デザイン」と「スタイル」からPS5の販売は苦戦する可能性が高いように思える。期待されたソフトも,今回の動画では従来に比べて,トゥーンレンダリングのゲームが多かった印象だ。エース経済研究所では以前から指摘しているが,日本のアニメが世界的に人気となり,若い世代にアニメ調のグラフィックスを受け入れる下地ができていること,さらに2017年にトゥーンレンダリングの「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」が大ヒットしたことでデベロッパに影響が出たと考えている。


 PS5,PS4で主流だったフォトリアルグラフィックスをさらにリアルにするように追求したはずだが,いざ発売になったときには潮流が変わっていた可能性があると思う。
 Nintendo Switchが引き起こしたライフスタイルの変化も,PS5にはネガティブに効きそうである。

 

このエース経済研究所の見方が正しいかどうかは,来年早々にははっきりしているだろう。その時点でもう一度検討したい。

 

 最後に,SIEのMark Cerny氏はPS5はXbox series Xよりも演算能力で劣るためか,実効性能という表現を使っているようだ。エース経済研究所では,演算能力でゲーム機の性能が決まらないとしていたため,SIEが実効性能の重要性について認めてくれたことをうれしく考えている。とくに,氏は過去にXbox OneWii Uなどの組み込みメモリを「パズル」だとしていたが,今回のSSDはデータの重要度を階層化することで,組み込みメモリのように実効性能を高められるそうだ。これもパズルでないかと思えるが,汎用エンジンがコストをかけて対応し,性能を発揮できるということなのであろう。

 

今後,SIEはカタログスペックではなく実効性能を推すということである。実効性能の重要性を主張してきたエース経済研究所としては感謝する次第だ。